研究概要 |
感性工学は,ユーザのイメージを具体的にデザイン化し視覚的に確認する手法であり,それ自体有効な開発支援技術であるが,3次元的,あるいは接触的に確認することができない.ところが人工現実感技術(VR)およびシミュレーション技術と感性工学とを結合することにより,ユーザ自身がコンピュータ内で直に接触して擬似的ではあるけれども感性に適合するかどうかの評価ができる. そこで本年度は,特にVRを利用しない場合と利用する場合とで感性工学システム(Kansei Enginering System; KES)での評価がどのように違い,どれほどの効果の差異があるのかの分析を行うことにより,逆に人工現実感技術の有効性を評価することを目的とした.またそのための評価手法の開発も目的の一つである.そこで以下の3点について検討を行った. 【1】感性工学システムの精緻化:感性工学の対象として住環境の中から浴室,およびキッチンを選択し,1)感性ワードの選定とその統計的データベース,2)主婦のライフスタイルデータベース,3)浴室,キッチンデザイン及びそれに係わるデザイン・色彩等のデータベースの構築,を実施した. 【2】人工現実感技術と感性工学システムとの結合:人工現実感技術と感性工学システムとの結合に関するプロトタイプ構築の経験を生かし,そのスキルを基に【1】の浴室感性工学システム及びキッチン感性工学システムと人工現実感環境との結合システムを構築をした.本システムは,特定の感性ワードの入力により推論機構を駆動させ,それに対応した浴室,およびキッチンデザインや各種テクスチャを推論し,その結果をVR環境上に出力するシステムである. 【3】評価実験の実施:感性工学にVR技術の導入が有効であるかの評価実験を試みた.本実験では,VRの提示条件やウォークスルーの有無などによってKESでの評価がどのように違い,どれほどの効果の差異があるかを検討した.本年度は予備的位置づけとしてまず浴室を対象としたKESを利用し実験を行った.具体的には,任意に選出した感性ワード(1.格調高い,2.トロピカルな,3.安らぎのある)に対する出力結果を,CRTを利用するデスクトップ型VR空間構築ツール(Superscape社VRT), HMDを利用するVR空間構築ツール(Sense8社World Tool Kit)にて構築したシステムで出力させて評価を実施した.その結果,提示方法に関してはHMDを利用することが有効であるものの疲労を考慮することが必要,ウォークスルーに関してはその機能によりイメージが強く湧くといった効果がみられている,という結論を得た。従って感性工学システムにVRを利用する効果は期待できると言える.
|