仮想世界が人間の脳におよぼす影響を分析・把握する手法を確立するとともに、リアリティ感覚に作用するすぐれた伝統的演出戦略についての知見を応用し、高度なリアリティ感覚を電子的に実現する演出戦略を開発することを目的として以下の研究を行った。 (1)脳のアクティビティを指標とするリアリティ感覚評価手法の開発 研究者らが開発したメディアと嚢との適合性をおもに脳電位活性を指標として評価する手法をさらに発展させ、脳のなかで造成される非日常的現象の達成具合を、できるだけ客観的に計測・評価する手法の開発をこころみた。評価指標としては、これまで実績のある脳波をもとに算出する脳電位活性の計測・分析を中心とし、あわせてストレス状態を反映する心拍数・呼吸数、血圧などの自律神経系の活動を反映する生理指標を非拘束で遠隔計測するシステムを構築した。さらに、脳波や自律神経系の諸指標よりも直接性のたかい生理学的評価を可能ならしめる手法として、ポジトロン断層法(PET)に注目し、これをもちいたリアリティ感覚造成の評価をこころみた。 (2)すぐれた伝統的リアリティ演出戦略の収集 第二に、伝統的祝祭やパフォーミングアーツなどの領域で、脳のなかに虚構のリアリティ感覚を造成する演出手法のなかから、電子的仮想世界の演出に効果的とおもわれる手法を抽出するための映像・音響資料の収集をおこなった。とくに、人類文化の精髄といえるユネスコ指定の世界遺産に着目し、インドネシアに所在する世界遺産(ボロブドウ-ル遺跡群、プランバナン遺跡群、ウジュンクロン国立公園、コモド国立公園)を対象として、その演出戦略を検討するための資料の収集をおこなった。
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