研究概要 |
RNAとタンパク質との相互の認識/情報伝達のメカニズムを明らかにするために,tRNAのアミノアシル化反応についてX線解析に基づく構造化学的研究を行う必要がある.本研究ではクラスIIに属するアスパラギン酸とヒスチジンの2つの系について,(1)ATP結合におけるMgイオンの必然性,(2)アミノ酸の認識,(3)ATPのアミノアシル化,(4)tRNAの3′水酸基へのアミノアシル基の転移,における静電ポテンシャルと相互作用エネルギー,反応に伴うエネルギー変化を調べた. tRNAアミノアシル合成酵素(RS)の静電ポテンシャルは,Mgイオンの結合を誘発し,結合するとATPのβリン酸基とγリン酸基が結合できるようになることを示している.アミノ酸の結合によってαカルボキシル基の一方のカルボニル酸素がαリン酸基の正のポテンシャルをもつリン原子に向くようになる.この結果は,三方両錐形の中間体を経て反転する反応スキームを支持している.相互作用エネルギーはMgイオンが結合して初めてATPがRSに結合すること,アミノ酸の結合にもMgイオンが関与していることを示した.アミノ酸の結合は律速段階となり,部分的なエネルギーの不利益を伴うが,aaAMPを形成することによって大幅に安定化し,さらにMg:PPiを放出することによって系は安定化する.RS:aaAMPの複合体にtRNAが結合すると,CCA末端のアデノシン残基の3′水酸基の酸素原子は負のポテンシャルとaaAMPのαカルボキシル基の炭素原子のもつ正のポテンシャルが近づく.両者のこのようなポテンシャルの組み合わせが,アミノ酸の3′水酸基への転移を誘発することが明らかになった.
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