大腸菌では過酸化水素によりカタラーゼ遺伝子katGを含む数種類の遺伝子が誘導され、これには転写調節因子OxyRタンパク質が関与している。OxyRは分子内にDNA結合ドメインと酸化還元センサードメインを兼ね備えている。OxyRの199番目のCys周辺のアミノ酸を置換した大腸菌変異株では、OxyRが酸化型に固定されて構成的にカタラーゼ等を高発現し、この株が酸化ストレスに対して抵抗性を増すことが報告されている。他の原核生物でもoxyR相同遺伝子が報告されている。しかしながら植物ではこれに類する系は未だ知られていない。植物は活性酸素分子種により光障害を受けるが、このような制御因子の遺伝子操作を行うことで、活性酸素に対する防御遺伝子群の総合的な発現増加をもたらし光障害を受けにくくすることが可能と考えられる。本研究では、植物からoxyRに相当する遺伝子をクローニングし、その機能を解析することを目標とした。そのための第一歩として、転写制御される側であるカタラーゼ遺伝子をラン藻からクローニングすることを試みた。まず、原核生物katGの塩基配列を元にしてmix primerを合成し、PCR法によりラン藻Synechocystis PCC6803およびSynechococcus PCC7942よりkatG相同遺伝子断片をクローニングした。更にSynechocystis PCC6803においては、この遺伝子断片を用いてゲノミックDNAライブラリーより5′上流の非翻訳領域を含んだ完全長のラン藻katG遺伝子をスクリーニングした。この遺伝子の全塩基配列を決定した結果、ラン藻katGタンパク質は729個のアミノ酸からなり、全体に渡り他の原核生物katGと高い相同性をもつことが明らかになった。今後は、このラン藻katG遺伝子における過酸化水素等の活性酸素による転写調節様式とその機構を調べていくことを予定している。
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