1.ラン藻では、窒素同化の中間代謝物であるカルバミルリン酸が分解して生じるシアン酸が、硝酸同化系遺伝子から成るnirAオペロンの転写を阻害するとともに、炭酸同化酸素遺伝子RubiscoをコードするrbcLSオペロンを活性化する。本研究では、シアン酸の効果とその代謝について以下のことを明らかにした。 (1) nirAオペロンの転写活性化因子NtcAがシアン酸の有無に関わらずプロモーター領域に結合することから、シアン酸によるnirAオペロンの転写阻害は、NtcAのプロモーターへの結合の阻害によるものではないと結論した。 (2) rbcLS以外の炭酸同化系遺伝子群の中で、Rubiscoの局在場所であるカルボキシゾームの形成と機能発現に関与するccmKLMNOとicfAが、rbcLSと同様にシアン酸による転写活性化を受けることを示した。 (3) シアン酸を分解するシアナーゼの活性は、細胞をアンモニア培地から硝酸培地に移すと3時間で6倍に高まった。この活性上昇は転写阻害剤により阻害された。以上の結果から、シアナーゼ遺伝子の転写は窒素栄養条件に応じて制御されると結論した。 2.窒素同化を阻害してnirAオペロンの転写を誘導した場合、硝酸イオンが転写を促進することを明らかにした。さらに硝酸還元酵素変異株を用いた実験により、硝酸イオンが還元されてできる亜硝酸イオンに転写促進効果があることを明らかにした。 3.ラン藻の硝酸イオン/亜硝酸イオン輸送体(NRT)は培地へのアンモニアの添加によって阻害されるが、NRTのATP結合サブユニットNrtCのC末端ドメインを欠く変異株では、アンモニアの存在下でも細胞内に1〜2mMの硝酸イオンが蓄積した。この結果と以前の結果を合わせ、NrtCのC末端ドメインが、NRT活性の負の制御に必要であると結論した。
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