研究概要 |
高塩環境に強い植物はその適応応答の1つとして適合溶質であるグリシンベタイン(ベタイン)を合成する.本研究では高等植物の耐塩性機能発現の分子機構におけるベタイン生合成の意義を検証すること,またその遺伝子操作により耐塩性植物を作出することを目的として以下の結果を得た. 1.ベタイン合成酵素遺伝子のイネへの導入:既知の最も単純なベタイン生合成糸は土壌細菌Arthrobacter globitormisが持つコリンオキシダーゼの糸であり、この酵素はcodA遺伝子にコードされている.植物用発現ベクターに組み込んだcodA遺伝子をパーティクルガンを用いて単子葉植物のモデルでありかつベタイン合成能を持たず耐塩性の遺伝子工学の対象であるイネに導入し,サイトゾルあるいはプラスチドにコリンオキシダーゼ活性を発現する形質転換イネ(当代)を複数得た. 2.形質転換イネでのベタイン生合成:コリンオキシダーゼを発現する形質転換体はベタインを生合成し,コリンオキシダーゼ量とベタイン蓄積量には正の相関が見られた.ベタインの蓄積量は根より葉で多く,高度にcodA遺伝子を発現する固体で4μmole/g fresh weightであった.これは遺伝子工学的手法によりイネがベタイン合成能を獲得した初めての例である. 3.形質転換イネの耐塩性評価:形質転換イネおよび非形質転換体を100 mM NaClを含むハイポネックス水溶液に置き,経時的にクロロフィルの蛍光を測定したところ,形質転換体では光合成活性の阻害が遅れることが観察された.すなわち形質転換体は塩環境でより耐性であることが明らかとなった.以上の結果は,植物の耐塩性機構にはベタインが重要な役割を果たしていることを示していることのみならず,その生合成糸の遺伝子操作により耐塩性植物が作出できる可能性をも示唆している.
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