研究代表者らによる、薬理学的に抑制された一次視覚野での眼球優位性コラムの研究により、皮質ニューロンの活動が発達期の可塑性の方向を決定していることが示されているが、それが通常の可塑性のメカニズムの別の側面を示すものかどうかは不明である。通常の眼球優位性の可塑的変化は、両眼入力の競合メカニズムにより起こることが知られている。つまり、片眼遮蔽の場合は入力の不均衡が生じ、遮蔽眼のコラムは縮小するのに対して、両眼遮蔽の場合は視覚情報は遮断されるものの、両眼からの入力線維の活動に不均衡は生じず、どちらの眼のコラムにも顕著な変化は観察されない。そこで、この抑制された皮質にみられる可塑性のメカニズムを検討するため、この可塑性が両眼入力の競合によるものかどうかを調べた。生後4週の仔ネコの大脳皮質視覚野に、皮質ニューロンの活動電位を抑制するために、GABA_A受容体の作動薬であるムシモールを充填した浸透圧ポンプにつないだカニューレを慢性的に埋め込んだ。この動物の両眼を眼瞼縫合により視覚遮断した。次に、一方の眼球に放射性同位元素で標識したアミノ酸、[^3H]-Prolineを注入した。2週間の生存期間の後、視覚野を含む皮質領域を伸展標本にし、それぞれの眼からの入力を受ける眼球優位性コラムの大きさを測定した。眼球優位性コラムを、ムシモールによって抑制されていた皮質領域と、より離れた領域あるいは対照皮質とで比較したところ、その大きさや形状に顕著な変化は観察されなかった。このことは、抑制された一次視覚野でのコラム構造の可塑性も、正常な視覚野と同様に、両眼からの入力の不均衡を必要とすることを示している。したがって、抑制された皮質における可塑性もまた両眼入力の競合メカニズムによるものと考えられる。
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