1 細胞は一般的に熱ショックを与えると、熱ショックタンパク質(HSP)の増加などによる細胞を守る機構が働き、通常の生育非許容温度における生存率を高める。この熱ショックの効果が、枯草菌の胞子形成開始期に一時的にみられなくなる。この同じ時期に、groE遺伝子の発現は急激に増幅されるという一見矛盾した結果が得られた。一方groE遺伝子を強制発現させると胞子形成能を失うことから、GroEの機能と細胞分化は密接に関連していると考えられる。 2 枯草菌の熱ショック応答は胞子形成期に入っても起こるが、groE遺伝子の発現を指標にした実験では、この反応には栄養増殖期とは異なり、胞子形成期特異的なシグマ因子σ^Hが必要であることを見い出した。groE遺伝子自身の発現にはσ^Hは関与しておらず、胞子形成初期過程の進行の結果、groE遺伝子発現の増幅が起こると考えられる。 3 枯草菌のgroE、dnaKオペロンのプロモーターには、原核生物に広く保存されているInverted Repeat(IR)構造があるが、この構造が熱ショック応答に果たす役割をin vitro転写実験で調べた。その結果、IR構造によって常温での転写が抑制されており、高温にすると解除されることがわかった。このことは、トランス因子の関与を考慮しなくても、熱ショック応答の機構を部分的に説明できることを示唆している。一方、IR構造に結合するトランス因子の精製を試み、特異的に結合する画分の同定にまで至った。
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