我々は、oligo-dTをプローブに用いた分裂酵母のin situ hybridizationによって、急激な熱ショック処理(42℃)が、mRNAの核から細胞質への輸送を阻害し、輸送されなかったmRNAの核小体への蓄積を誘発すること見いだした。このことは、酵母においては核小体がmRNAの核外輸送に何らかの形で関与している可能性を示唆する。また、我々が最近分離した一群のmRNA核外輪輸送変異株のうちの一つ(mrt2)において、急激な熱ショックストレスを与えたときと同様に、制限温度下で培養すると、mRNAが核小体領域に蓄積することを見いだした。mrt2を相補する遺伝子をクローニングしたところ、GTPase Ranに対するguanine nucleotide exchange factorをコードするRCCIの相同遺伝子であることが判明した。また、熱ショック蛋白をコードするmRNAの挙動を解析するため、mRNAの核外輸送を阻害する42℃で熱ショックをおこなった細胞から調製した抽出液と、hsp104に対する抗体を用いてWestern blotを行ったところ、ほとんどのmRNAの核外輸送が阻害されているにも関わらず、hsp104蛋白の発現が誘発されていることが判明した。このことは、hspのmRNAが通常の細胞mRNAの核外輸送系とは異なる機構で細胞質へと輸送されている可能性を強く示唆している。hspの発現機構に関しては、遺伝子の転写、蛋白への翻訳、mRNA安定性など色々な段階で通常のmRNAの発現機構には無い特殊性を持つことが知られており、mRNAの核から細胞質への輸送レベルにおいても、hsp mRNAに特異的な輸送機構が存在している可能性は十分考えられる。
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