研究概要 |
1)Sec因子に依存して膜透過される分泌型タンパク質proOmpAを材料として、分子内にループ構造を持つ変異人工タンパク質を系統的に作製した。ループ構造形成による膜透過の停止の様子をin vitro系で解析した結果、得られる中間体は、アミノ末端からループまでの距離に対応して段階的に変化するのではなく、ある一定の間隔で不連続的に変化することが明らかとなった。このことは、前駆体タンパク質の膜透過が、約30アミノ酸残基単位でステップワイズに進行していることを示唆している。更に、前述の変異分泌型タンパク質のin vitro膜透過実験を、精製Sec因子を組み込んだ再構成膜を用いて行ったところ、膜透過活性発現に不可欠な3つの因子(SecA,E,Y)のみでこのステップワイズなパターンが再現出来ることを見いだした。また、他の実験より、SecAは分泌型タンパク質シグナルペプチド内の疎水領域を認識し得ることも明らかにした。これらの知見は、分泌型タンパク質は、SecAにより認識され、この因子のダイナミックな動きと連動してステップワイズに膜透過が進行している可能性を示している。 2)SecAは、大腸菌膜透過反応に不可欠なATPaseである。この因子のATP加水分解の触媒残基の同定を目的として、他のATPaseとの一次構造比較から触媒残基と予想される133番目のAspをAsnに改変した変異型SecA(D133N)を作製、その酵素化学的解析、in vitro膜透過実験を行った。D133Nは、膜透過反応と共役したATPase活性が著しく低下していると同時に膜透過活性を完全に失っていたが、ATPの結合能力に変化は見られなかった。一方、SesAと相互作用する各因子に対する親和性は野生型と同程度であった。以上のことより、133番目のAsp残基が、膜透過と共役したATP加水分解の触媒残基として機能していることが明らかとなった。
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