大腸菌のSOS応答はストレス応答の代表例では有るものの、その始動のステップの分子機構は充分解っていない。その一つの原因は系の複雑さにある。我々は系の単純化のため、染色体上の複製フォーク阻害点(Ter)を利用した。このフォーク阻害活性は、Ter-Ter結合(Tus)タンパク質との複合体形成により発現される。これまでの研究からこのTer-Tus複合体によるフォーク阻害の結果、SOS誘導が起こることを明らかにしている。本年度は蛋白工学研の鎌田・森川両氏との共同研究により、このTerとTer複合体の結晶化に成功し、その立体構造を明らかにしつつある。今後他のDNA結合タンパク質との構造比較により、Tus特異的なフォーク阻害の機構を明らかにする一方フォーク阻害を起こさない一般のDNA結合タンパク質の構造的共通性の有無をも明らかにできると考えている。 一方Ter部位でのフォーク阻害によって誘導されるSOS反応のうち、特に初期反応を明らかにするためには、大腸菌染色体よりもプラスミドを用いる方が優れている。そのためプラスミドに合成したTer配列を挿入し、フォーク阻害が起こるプラスミドを作製した。またこれとは別に、Tusタンパク質の発現をON-OFFにする目的でアラビノースプロモーター下にtus遺伝子を挿入した発現プラスミドを作製した。この2種のプラスミドを、tus^-株へ導入し、アラビノース添加によりTusタンパク質が誘導され、その結果プラスミドの複製がTer部位で阻害され、SOSが誘導される系を作った。現在この系を用いて、フォーク阻害とSOS誘導の関係を調べているが、これまでにプラスミドの複製開始点(ori)からTerまでの距離とSOS誘導のレベルに相関があるという予備的結果を得ている。この系を用いてSOS誘導の基本的な初期反応を本年度中に明らかにしたい。
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