研究概要 |
lyn遺伝子欠損マウスの解析を行った。Lyn欠損マウスは外見上及び行動に異常は見られなかった。LynがB細胞の様々な分化段階で発現することから、まづ骨髄でのB細胞の成熟を調べた。様々な細胞表面分化マーカーに対する抗体を用いたFACS解析からはB細胞の成熟過程での異常は観察されなかった。ところが、末梢組織での成熟リンパ球は約半分近くに減少していた。これは末梢でのB細胞の増殖が著しく阻害されているとを示している。B細胞以外の血球細胞の分布には大きな変化は見られなかった。末梢B細胞の減少はLyn欠損に伴う増殖能の低下にあると考えられた。事実、lyn欠損マウスの脾臓B細胞をin vitroで抗原やCD40リガンドで刺激したところ、DNAの取り込が著しく減少していた。これは、抗原受容体やCD40からの増殖シグナル伝達系にLynが関与することを示している。ところでlyn欠損マウスでは生後3箇月を過ぎる頃から脾臓の増大が見られ、その中にはプラズマ化したB細胞やMAC1抗原を発現するリンパ球様細胞が異常に増えていた。これらの細胞は、無刺激の状態でも抗体を産生していることが、これらの細胞をin vitroで培養した培養上澄を調べることで明かとなった。またマウス血清中には、IgMが大量に存在しており、抗DNA抗体も見い出され、自己抗体産生が強く示唆された。さらに、およひ10箇月令のlyn欠損マウスは抗原抗体複合体の沈積による糸球体腎炎を起こしていた。Lyn欠損マウスの解析からは、Lynチロシンキナーゼが細胞の増殖と細胞死の双方にシグナルを送ることが示された。また、lyn遺伝子欠損マウスで見られた末梢B細胞の減少は、lyn,fyn両遺伝子欠損マウスではさらに顕著であることが示され、B細胞の増殖にLynとFynが相補的であること示唆された。
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