我々は、B細胞株WEHI-231を用いて、抗原レセプター(表面免疫グロブリン;sIg)を介するシグナルによる細胞周期停止、また、B細胞抗原CD40を介するシグナルによる細胞周期回転の誘導の分子機構について検索を行った。WEHI-231はsIgクロスリンクによりG1期で細胞周期が停止、この細胞周期の停止はCD40を介するシグナルにより解除される。したがって、sIgやCD40を介するシグナルによる細胞周期回転の調節において、G1期の細胞周期回転を制御するタンパクキナーゼ、サイクリン依存性キナーゼ2(Cdk2)が重要な役割を果たしていると考えられる。実際、Cdk2キナーゼ活性はsIgクロスリンクにより著明に減少し、CD40を介するシグナルにより回復した。しかしながら、Cdk2タンパクの量はこれらのシグナルにより変化しなかったので、これらのシグナルはCdk2の活性を調節していると考えられた。Cdk2活性化に関与する分子機構のうち、Cdk2の活性化に必要なCdk活性化キナーゼ(CAK)の活性は、sIgやCD40を介するシグナルにより余り変化しないと考えられ、同じくCdk2の活性化に必要なサイクリンEのレベルも若干変化したのみであった。しかしながら、sIgクロスリンクによりCdKインヒビター(CKI)活性が著明に上昇し、この上昇はCD40シグナルにより減少した。したがって、sIgやCD40を介するシグナルによる細胞周期回転の調節においてCKIが重要な役割を果たしていることが明かとなった。さらに、我々は、sIgクロスリンクにより誘導されるCKI活性が主にKip1分子の発現によることを明らかにした。したがって、Kip1分子の発現調節がsIgを介する負のシグナルおよびCD40を介する増殖誘導シグナルにおいて重要な役割を果たすことにより、免疫系の制御機構に関与することが明かとなった。
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