糖鎖に対するT細胞の認識に関しては、ペプチドの認識と異なりほとんど未解決であり、糖鎖認識T細胞の生理的意味も不明である。 これまで我々は、マウス・メラノーマ抗原として機能しているGM3ガングリオシドを認識するT細胞による糖鎖認識のメカニズムを解析してきた。GM3を認識する均一なT細胞抗原リセプター(Vα11Jα281)の遺伝子再構成が、母親の胎盤中で妊娠8日目から起こり、4-5日後に末梢でも同じ再構成が起きることがわかった。さらに妊娠後期(12日以降)に胎盤でのみGM3を認識するT細胞抗原リセプターのmRNAが特異的に増加していることが判明した。 以上のことから、GM3を認識するVα11Jα281/Vβ13という均一な抗原リセプターを持つT細胞が妊娠の継続にある役割を果たしている可能性が考えられた。そこで、この受容体に対する抗体を妊娠マウスに投与し、特異的なT細胞を消失させることによって、妊娠の継続に変化が現れるか否かを検討する個体レベルの実験を行った。この実験系は、マウスのごくわずかなウイルス感染によっても流産の率が変動する系であり、初期の実験結果は大きく変動した。しかし最近、ようやくクリーンなSPF条件下での実験が可能になった。このクリーンな条件下でも、正常マウスは流産率が10-20%であったが、抗Vα11抗体投与群は、ほぼ0%であった。一方、コントロール抗体投与群は、正常マウスと同様に、10-20%であった。このことは、GM3認識するT細胞が、胎盤中で妊娠状態の維持に対して負に作用していると考えられた。
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