前年度に引き続き、各種ガングリオシドde novo合成調節物質を用いてヒト上皮性悪性腫瘍細胞株の分化誘導活性を検討したところ、長糖鎖ネオラクト系ガングリオシド合成を抑制し、G_<M3>の合成を促進する活性を有するもの、特にマクロライド系抗生物質であるBrefeldin A (BFA)に分化誘導活性があることが判明した。本研究では、主としてBFAの各種類縁体を合成し、その効果を検討することにより、ガングリオシド発現調節と癌細胞の分化誘導との関連性をさらに追究した。その結果、今回用いた類縁体のうち、水酸基をアセチル化したもののみに分化誘導活性が認められ、4位・7位の水酸基の立体配置と2位・10位の二重結合の存在がBFAの分化誘導活性に必須であることが示された。ガングリオシドのde novo合成に及ぼす影響を解析したところ、分化誘導活性のあった類縁体にのみ、BFAと同様のG_<M3>の顕著な増加および長糖鎖ネオラクト系ガングリオシドの発現抑制が認められ、このガングリオシドパターン変化と分化誘導活性との密接な関連性が強く示唆された。BFAには、ガングリオシドde novo合成調節活性以外にも多様な活性があるので、これらの活性と分化誘導活性との関連性を追究中であるが、BFAの分化誘導活性はフォルスコリンにより阻害されなかった。このことから分化誘導活性は、BFAの持つ糖タンパク質の細胞内輸送阻害活性とは別のもので、ガングリオシド生合成調節活性に帰属することが示唆された。同様のアプローチにより、ヒト神経膠芽腫細胞株にも分化を誘導することができた。ガングリオシドの発現調節が、がん細胞の分化誘導のための有力なターゲットになる可能性が強く示唆された。
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