研究概要 |
生体の発生・分化を制御している各種転写制御因子の中で、POUドメインと呼ばれるDNA結合領域を有する転写因子はPOU転写因子と総称されるが、本研究で我々はジーンターゲティング法を用いてクラスIIIPOU転写因子に属する4種の転写因子 (Brnl,Brn2,Brn4,Oct6) の機能解析を行っている。本年度の研究実績は以下の通りである。 1) Bm2遺伝子の多角的な機能の解明 : 我々は昨年度までにBm2遺伝子マウスを樹立し、その解析からこの変異マウスでは視床下部の大細胞性ニューロンの発生が見られないことを報告している。本年度はさらに、抗Spot35抗体を用いることによりBm2変異マウスでは大細胞性ニューロンの発生が、胎生12.5日の段階で停止することを同定した。さらにRNAaseプロテクション法により、Bm2変異マウスのヘテロ接合体では、大細胞性ニューロンの産生する神経ペプチドであるバゾプレッシンとオキシトシンの転写産物量が野生型の約半分になっていることを発見した。これらの結果は、Bm2遺伝子が大細胞性ニューロンの発生から成体における機能発現までを制御していることを示すものである。 2) Bm1遺伝子欠損マウスにおける海馬の構造異常の発見 :我々は昨年度までにBm1遺伝子変異マウスを樹立し、この変異マウスのホモ接合体は全て生後48時間以内に死亡することを報告した。本年度はこの変異マウスの中枢神経系の詳細な解析を行い、このマウスでは海馬のCA1及びCA2領域の層構造の形成不全が見られることを発見した。 3) Bm4遺伝子欠損マウスの樹立 : 本年度我々はBm4遺伝子欠損マウスの樹立に成功した。このマウスは正常に発生し、交配も行う。しかし、詳細な解析の結果、この変異マウスは全く聴力が欠失していることが判明した。現在その機構を解析中である。
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