我々は、サイトカイニン作用の少なくとも一部はサイトカイニン結合蛋白質CBP57によるメチル化の調節を介して行われているという仮説を検証するためにメチル化調節物質のサイトカイニンの作用に対する影響、CBP57の組織・細胞内局在、CBP57遺伝子の発現に対するサイトカイニンの影響、サイトカイニンのSAHハイドロラーゼ活性に対する影響の有無などを調べた。その結果、以下の事が明らかになった。 1.緑葉の老化制御や黄化芽生えの胚軸や根に対する伸長抑制効果の系ではいずれもメチル化調節物質はサイトカイニン様の作用は示さなかった。 2.CBP57の組織・細胞内局在の解析から、CBP57は分化組織の細胞質に存在し、細胞の分裂増殖よりもむしろ組織の分化形質に関与していることが示唆された。 3.緑葉をサイトカイニン処理することによってCBP57遺伝子のmRNA量の増大が認められた。従って、CBP57遺伝子自身がサイトカイニンによる調節をうけている可能性が示唆された。 4.CBP57(SAHハイドロラーゼ)を粗精製してサイトカイニン添加、無添加の両者について酵素活性を測定した。その結果、サイトカイニン添加、無添加のいずれにおいても同程度の酵素活性が見られた。これはcAMPなどのヌクレオチドで阻害を受ける動物のSAHハイドロラーゼとは大きく異なっていた。 以上の成果からはサイトカイニンがメチル化を調節しているという直接的な証拠は得られていないが、他のグループの報告やCBP57の組織局在やサイトカイニンによる発現調節といった我々のデータから、CBP57(SAHハイドロラーゼ)は植物組織におけるサイトカイニン作用の調節に働いていることが示唆された。
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