研究概要 |
先天性鉄芽球性貧血は赤血球型δ-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS-E)の活性低下により発病すると考えられている。我々の解析した症例では(1)末梢血のALAS-E活性は正常の約10%であったが、ミトコンドリア内の酵素蛋白も約10%に低下しており、酵素の比活性の低下をもたらすような変異ではないことが示唆された、(2)患者遺伝子上ではAsp190Val変異が認められた、(3)本変異を有する酵素蛋白の発現実験を行なったところ、正常の酵素と全く同じ比活性を持っていた、(4)しかし変異を有する酵素蛋白は正常の酵素より大きな分子量を有しており、プレマチュアーな酵素蛋白からのプロセシングに異常があることが推定された(J.Clin.Invest.,revised)。従って、本症例では変異により酵素のプロセシングが異常となり、ミトコンドリアへの移行が障害されて発病したと考えられる。このように正常な活性を持ちながら、細胞内小器官への移行が障害されたために発病した例は非常に稀で興味深い。 以上の結果は鉄芽球性貧血はALAS-Eの転写調節からミトコンドリアへの蛋白輸送までの様々なレベルでの以上で起きることを示している。では、ALAS-Eの発現の異常の細胞生物学的意義は何だろうか。MEL細胞のヘム代謝をALASのレベルで抑制するためにアンチセンスRNAを発現させた所、抑制の程度に伴いヘム合成系酵素とグロビンの発現、及びヘムの合成量が抑制された。さらに赤血球系転写因子のNF-E2の大サブユニット(p45)の発現が抑制された。この発現抑制は赤血球分化を行なわないDR細胞でも確認され、p45の発現がヘムにより調節されること、ALAD以下のヘム合成系酵素を含む赤血球系蛋白群の発現がp45により調節されていることが示された。
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