本研究者はこれまでにこの研究のモデル植物としてタバコ(Nicotiana plumbaginifolia)とトウガラシ(Capsicum frutescens)をとりあげ、これらの植物に対してProfessor K.Hahlbrockから分譲をうけたパセリ由来のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)cDNAをAgrobacterium tumefaciensとA.rhizogenesを用いて導入し、リグニンに至るフェニルプロパノイド生合成系の強化された植物細胞の育成を試みてきた。その結果、リグニン化したトウガラシの毛状根、あるいは固いタバコのカルスが得られている。本年度は昨年度に引き続き、これらタバコの培養細胞とトウガラシの毛状根を用いて栄養ストレスに対する影響を検討する目的で、PAL遺伝子を導入した形質転換体のフェニルプロパノイド生合成系代謝中間体の蓄積量を調べた。その結果、いずれもフェニルプロパノイド代謝の中間体全体については顕著な蓄積量の増加は観察されなかったが、トウガラシにおいてはリグニン化した毛状根がPAL遺伝子を導入したときのみに見られ、PALを導入しなかった毛状根、あるいは野生株の培養根には見られなかった。それらの培養根のリグニン含量を測定したところ、PAL遺伝子導入根ではリグニン含量が約2倍に増加していた。この形質転換株の増殖速度は対照より遅かったが、PAL活性は培養の時期によって異なるものの、増殖期の後期には対照の毛状根の約2倍に増加しており、フェニルプロパノイド生合成系が強化されていることが分かった。この形質転換した毛状根の細胞について、組織化学的な観察を行ったところ、各細胞の細胞壁のリグニン化が進んでいるだけでなく方形の細胞が球状に変化し、根の太さも3倍になっていることが分かり、病虫害などをも含めた各種のストレスに耐性になっている可能性が示された。
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