研究概要 |
1.GSTの構造機能相関研究-触媒機構の解明: α,μ,πクラスGSTの触媒残基はTyrであるが,大腸菌GSTでは,一次構造上このTyrが保存されているにも関わらず,触媒機構には関与していないことを我々は既に明らかにした.GSTファミリーの一次構造の比較検討から,このTyrを触媒残基としない分子種が広く存在すると考えられた.大腸菌GSTの一次構造を触媒残基がまだ明らかにされていないθクラスおよびθ類似GSTと詳細に比較した結果,Serllが触媒残基の候補として考えられた.そこで,この残基をアラニンに置換した変異体(SerllAla)を作製し,酵素活性を測定した.その結果,SerllAlaでは野生型の5%程度に活性が低下していることが明らかになった.このことから,Serllが触媒残基の有力な候補と考えられる. 2.大腸菌GSTのX線結晶解析: 大腸菌GSTの触媒残基と触媒機構を明らかにするために,結晶化を行い,X線結晶回折データを得た.結晶化は,酸性条件下でポリエチレングリコール6000存在下に蒸気拡散法で行い,GSTとその阻害剤であるグルタチオンスルフォネートとの複合体として結晶を得た.結晶は板状であり,0.3×1.0×1.5mmの大きさであった. 3.基質特異性のメカニズムの解明: GSTの基質特異性発現のメカニズムを明らかにするために,ヒトとラットに由来するπクラスGSTのキメラ酵素と部位特異的変異体酵素を作製した.ヒトおよびラット由来GST P1-1は,一次構造上86%のアミノ酸が一致し,209残基中30残基が異なる.この二つの酵素分子は,GSTの典型的な基質であるエタクリン酸に対してはほぼ同等な活性を持つが,1-クロロ-2,4-ジニトロベンゼン(CDNB)に対する活性が大きく異なる.キメラ酵素と部位特異的変異体酵素の解析から,CDNBに対するKmの相違に161位の残基の相違(ヒトではイソロイシン,ラットではバリン)が重要であることが明らかになった.コンピューター・グラフィックスを用いて検討したところ161位の残基に近接する104位の残基の相違(ヒトではイソロイシン,ラットではグリシン)も重要であり,161位と104位のアミノ酸残基がCDNB結合部位の形成,特異性の差異に関与していると推測される.
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