ヒト遺伝性非ポリポ-シス大腸癌(HNPCC)細胞は、ミスマッチ修復遺伝子に欠損をもち突然変異を高頻度に誘発することがしられている。この研究では、それら細胞に誘発されるHPRT遺伝子突然変異を詳細に解析する。使用した細胞は、遺伝性非ポリポ-シス大腸癌(HNPCC)組織由来で、ミスマッチ修復遺伝子hMLH1に欠損をもつHCT116と、同じくGTBP遺伝子の欠損をもつHCT-15、DLD1である。本年度は、hMLH1をもつHCT116細胞に重点を置き、HPRT遺伝子での突然変異を多重PCRとcDNAシーケンシングによって詳細に解析した。得られた成果の概要を以下に記す。 (1)ミユ-テーター癌遺伝子hMLH1に欠損をもつHCT116、同様にGTBPに欠損をもつHCT-15、DLD-1細胞の自然誘発6TG抵抗性突然変異頻度は、正常細胞の突然変異頻度より100倍ほど高い値を示した。またいずれのミユ-テーター細胞も、G:Tミスマッチを誘発するMNNGによる致死作用に対して正常細胞より著しく抵抗性であった。これらの結果は、いずれの細胞もG:Tミスマッチ塩基の修復に欠損をもつとすれば説明できる特性である。 (2)HPRT遺伝子変異の解析:ミユ-テーター癌遺伝子の誘発する突然変異の特性を詳しく調べるため、hMLH1に欠損をもつHCT116細胞の自然誘発6TG変異クローンを多数採集し、多重PCRとcDNAのシーケンシングの併用によりHPRT遺伝子に生じた突然変異を解析した。得られた突然変異スペクトルから、ミスマッチ修復遺伝子に欠損をもつHCT116細胞の突然変異は、正常細胞の突然変異に比して下記のような著しい特異性を示す。(i)数bp以上の欠失/挿入は無く、約50%は塩基置換で、他は3bp以下の欠失/挿入とスプライシング異常である、(ii)それら変異の大半はG:C位置で生じている。このような特異性は、HCT116細胞がG:Tミスマッチ塩基の修復遺伝子hMLH1に欠損をもつこととを良く符合している。現在、変異配列の見つかっていないクローンについての検討と、スプライシング変異クローンについて、その原因である変異配列の同定を進めており、より詳細な突然変異スペクトルの完成を目指している。
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