神経ネットワークを形成した細胞の生存は持続的なシナプス伝達強化に依存している。これを損なう作用例えば、神経栄養因子(NGF)の除去、過剰なCa2又はNa^+の流入(共にイオノフォアを使用)は、共通の過程即ち、染色体の凝縮と細胞死(アポトーシス)を引き起こすことを明らかにした。 (1)過剰なNa^+流入による培養上頸神経節細胞のアポトーシスの機構 Na^+イオンが過剰に流入すると神経細胞死を誘発し、その効果は神経細胞の成熟に伴って増強された。この毒性は幼若な細胞では起こらなかった。この発達はNa^+チャンネルの発達によると考えられる。0.1-40μMベラトリジンで10-15時間処理すると、用量依存的に毒性を示し、40μMでは約80%の細胞が死滅した。10μM以下ではその効果はテトロドトキシン(TTX)によって抑えられた。蛍光イメージング法によると、細胞外のCa2^+もNa^+も流入するため、VERAの毒性がCa2^+の流入によるのかNa^+の流入によるのかを調べると後者によることが分かった。細胞死のメカニズムとしては細胞体が縮むこと、ビスベンザミドで染色するとアポトーシスに特徴的な染色体の凝縮が起こることから、アポトーシスであろうと考え、新しいメカニズムを提出した。 (2)培養上頸神経節細胞のアポトーシスのCa2^+による制御 我々は神経細胞生存に関する細胞内Ca2^+ウィンドウの存在を仮定し、Ca2^+イオン濃度がより高い領域もより低い領域も細胞死が起こると考えた。更に、NGF除去すると細胞内Ca2^+イオン濃度の低下が起こり、これがトリッガ-となって細胞死に至ることお想定した。この仮説の当否を検討した。その結果両者とも染色体の凝縮を誘発し、細胞死を促進した。例えば、Ca2^+キレート剤BAPTA-AMで10-15時間処理すると、細胞体が収縮し、約70%の細胞が死滅した。この細胞死はc-fosの活性化、クロマチンの凝縮・断片化を伴っていた。これはNGF除去による細胞死と良く似ている。実際NGF除去により細胞内カルシウム濃度は低下した。この結果、NGF除去による細胞死に関して新しいカスケードの存在を提出した。
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