研究概要 |
レチノイン酸は体内でビタミンAよりレチノイン酸合成酵素により合成されるが、発生過程における過剰または不足は催奇形作用があることが知られていた。近年の分子生物学の発展により、レチノイン酸は形態発生過程をコントロールする特定の遺伝子群を活性化することが解明されてきた。小脳周囲の組織(第4脳室脈絡叢)からレチノイン酸が分泌され、小脳に何らかの影響を与えるのではないかと推測された。マウス及びラットでレチノイン酸合成酵素の活性を測定すると、高い値を示し、しかも小脳が発達してくる、胎生期から生後3週目ぐらいまでその値が持続することが観察された。さらに、小脳の器官培養の系を用いて、脈絡叢から分泌される物質の効果を調べた結果、小脳ニューロンの突起伸展は、脈絡叢の培養上清をくわえた時に促進されることが観察された。この効果を及ぼす物質として、様々な成長因子が候補としてあげられるが、脈絡叢培養上清を100℃,10min煮沸しても突起伸展作用が消失しないことから高分子量の蛋白ではないと考えられる。レチノイン酸である可能性が高いので、レチノイン酸それ自体の小脳器官培養にたいする効果を調べたところ、やはり突起伸展作用を示した。脈絡叢培養上清とレチノイン酸をくみあわせて器官培養にくわえても、この作用の増強は見られなかったことから、突起伸展因子はレチノイン酸そのものかまたは、レチノイン酸と似た作用機構を介して、突起伸展を促すと考えられる。現在、レチノイン酸のレセプターに対するアンタゴニスト、又は抗体を試みようとしている。
|