神経細胞死の過程では数々の遺伝子が様々な局面で働いており、それらを包括的に単離・解析するには遺伝子発現動態の全体像を俯瞰することが必要になる。我々は、信頼性が飛躍的に向上した改良ディファレンシャルディスプレイ法(DD)を独自に開発し、これをもとに蛍光DNAシーケンサーあるいは蛍光イメージアナライザー上で転写物の高速スキャニングを行う蛍光DD(FDD)システムを構築した。このFDDシステムを用いて神経芽細胞腫のアポトーシスの過程において発現が誘導あるいは抑制される遺伝子の検索を行った。 我々は神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に神経毒であるコルヒチンによってアポトーシスを誘導する系を対象としてきた。今年度は細胞死の進行に伴う遺伝子発現の動態を視覚化するために、コルヒチン添加後0、6、12、24、48時間に調製したRNAを用いて計320通りのプライマーの組合わせによるFDD解析を行った。その結果、発現動態が変動するバンドを263本を同定した。これらのうち一過性の発現変動を示すもの2種をクローン化し、現在詳細な解析をすすめている。他のバンドのクローニングも順次行う予定である。 また上記の系とは別に今年度から新たにアルツハイマー病βペプチド(三菱生命研・高島博士より供与)によって神経芽細胞腫LA-N-5細胞にゲノムDNAのラダー状分解を伴うアポトーシスを惹起する系を確立した。こちらの系に関しては8つのタイムポイントによるFDD解析を開始した。現在までに120通りのプライマーペアに関してはスクリーニングおよび再現性の確認を終え、12種のバンドについてクローニングを行った。これらの大半はESTや未知の遺伝子であり、今後はこれらの作業を続行するとともに双方の系の比較によって得られた遺伝子を分類することを計画している。
|