運動ニューロンにおける細胞死をBDNFやNT-3がある程度阻止することから、BDNFやNT-3が運動ニューロン栄養因子として働いていると考えられるが、他の栄養因子が存在する可能性もある。我々は、運動ニューロンを特異的に認識する抗体を用いて運動ニューロンを精製し、RT-PCR法により運動ニューロンに特異的に発現するレセプター型チロシンキナーゼ群をクローニングした。その中で、BDNF、NT-3のレセプターであるTrkファミリーとは異なるEphレセプター型チロシンキナーゼファミリーに含まれるSekが、肢を支配する運動ニューロンと肢芽に特異的に、さらに運動ニューロン細胞死の時期(E5〜E10)に一致して一過性に発現していること、またRetプロトオンコジーンが後期胚から成鶏にかけて運動ニューロンに強く発現していることを見い出した。 平成7年度には、マウスELF-1がSekに結合することからリガンドであると報告されたため、我々もトリのELF-1をクローニングしCOS細胞に発現させたが、3T3に発現したSekを反応させるとSekと反応させてもSekがリン酸化しないことからリガンドではないと判断した。ところが、ELF-1を発現している細胞株として報告されたラット肝由来のBRLとSekはリン酸化することから、BRLには真のSekリガンドが発現していると考えられた。BRLからmRNAを抽出し、RT-PCRによりEphレセプターのリガンドファミリーをクローニングしたところ、これまで報告されていない新規のリガンドcDNAを見い出し、Sekのリガンドであるかどうか検討している。 Retは発生後期から成体にかけて機能していることが期待されるため、ヒヨコの座骨神経切断による発現変化を解析した。運動ニューロン細胞体では除神経1日で僅かに増加し、その後減少し、2週間で再度増加した。一方、座骨神経の切断遠位部では、切断後3日より増加し、低親和性NGFレセプター発現変化と類似していた。これらのことから、Retも運動ニューロンの再生・維持に働いていることが期待される。
|