研究概要 |
広義のユリ目Liliifloraeは、きわめてheterogeneousなグループであり、その系統・類縁関係、分類体系に関しては分類学者によって異説が多い。申請者のグループは、これまでLiliiflorae内のうちDioscoreales,Asparagales,Melanthiales,Lilialesの各目に属する分類群の類縁関係とその帰属に関して、主として葉緑体DNAゲノム(特にrbcL遺伝子)の解析により研究を進めてきた。これまで得られた結果を総合、要約すると以下のようになる。 (1)Dahlgrenら(1985)によるMelanthiales目Melanthiaceaeは,以下の4つの全く異なるcladeに帰属する:(i)Tofieldia,Japonolirion;(ii)Methanarthecium,Narthecium,Aletris;(iii)Varatrum;(iv)Chamaelirium,Chionographis,Helonias,Heloniopsisの4群に分離する。(2)Convallariaceaeは、(i)Convallaria,Disporopsis,Smilacina,Polygonatum,Maianthemum;(ii)Prosartes,Streptopusの2つの全く異なるcladeに分離する。(3)Uvulariaceaeは、(i)Uvularia,Disporum;(ii)Scoliopus,Tricyrtis;(iii)Clintoniaの3つのcladeにわかれる。(4)これらの分子レベルの新事実を総合した系統樹の作成が現在進められいるが、この結果によるとユリ上目Liliiflorae内の各分類群の位置は大幅な変更が必要となる。(5)公募研究期間の1995年には、とくに当初の計画どうり新たにオモダカ上目Alismatifloraeのトチカガミ科HydrocharitaceaeヤナギスブタBlyxajaponica、イバラモ科NajadaceasイトトリゲモNajas japonica、オモダカ科AlismataceaeオモダカSagittaria triflora、ヒルムシロ科PotamogetonaceaeフトヒルムシロPotamogeton fryeri、ミズアオイ科PontederiaceaeコナギMonochoria vaginalisのrbcL遺伝子1,380bpの全塩基配列を決定し、単子葉植物郡全体におけるこれら分類群の、系統学的位置の解析が行われた。この解析結果は、現在の分類体系の大幅な再検討を必要とする重要な知見を含んでおり、今後さらに包括的な研究の必要性を示唆している。(6)以上の分子系統学的解析に加えて、rbcL遺伝子の詳細な構造の解析が、現在、併せて進められている。rbcL遺伝子中のGC含量は少ない。とりわけコドンの3番目にGかCをもつものが非常に少ない。condon usageを比較すると、どのアミノ酸においても、同義的なコドンの中で3番目にGかCをもつものの割合が少ない傾向がある。また、多くのアミノ酸で同義的なコドン中3番目にTをもつものの頻度が非常に高い傾向がみられた(Arg,Pro,Ala,Thrなど)。コドンの使用頻度に何らかのbiasがかっているのか否かについては,不明である。分類群間でのcodon usageには、はっきりした傾向はみられない。それが系統上の制約によるものなのか、あるいは分子的要因によるものなのかは現段階では判定できない。
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