種間雑種の解析は、致死・不妊あるいは形態異常などの表現型として容易に種間の遺伝的変異の存在を明らかにできる有効な手段である。種間雑種における発生・形態異常の原因遺伝子を単離しその種間変異の分子構造と機能を解明することを目的として以下の解析を行った。キイロショウジョウバエとその近縁3種とのF1雑種の胸部背板剛毛数を解析し、キイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエの雑種で特異的に胸部の剛毛が失われることを明らかにした。オナジショウジョウバエにより近縁なD.mauritianaやD.sechelliaがキイロショウジョウバエとの雑種において剛毛を失わないこと、この変異がオナジショウジョウバエ集団中に多型的に存在することから、この形態異常に関与する種間変異の少なくとも一つはオナジショウジョウバエの系統で比較的最近生じたと考えられる。遺伝学的な解析からこの剛毛の消失にはオナジショウジョウバエのX染色体が大きな効果を持つことを明らかにし、欠失染色体を用いたスクリーニングによってX染色体上に剛毛の消失に関与することを示唆する2つの領域を見い出した。Sensory Organ Precursor(SOP)でlac-Zを特異的に発現するneuralizedおよびDeltaに挿入したエンハンサー・トラップ系統を用いて、多くの剛毛を消失する交配(>10/個体)でもこれらのlac-Zの正常な発現が見られることを明らかにした。これは、種間雑種の剛毛消失は初期のSOP細胞運命の決定以降に障害が生じているためであることを示唆する。これと一致して、achaete、scuteなどproneural遺伝子のantagonistであるextramacrochaetae遺伝子の突然変異、欠失染色体を用いても種間雑種の剛毛の消失は回復されない。
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