細胞質分裂には種々のタンパク質が関与するが、この中でもミオシンやアクチンなどの収縮性タンパク質は、収縮環の形成とその機能発現に重要な役割を果たす。本研究では、Theonella属海綿から単離され、アクチン2モルに対して1モル結合して、アクチンの重合阻害をすることが試験管内の反応で明らかにされているビスセオネライドA(bistheonellide-A、BT-A)を用いて、細胞質分裂の機構解明を図った。 フィッシャー系ラット胚由来3Y1線維芽細胞クローン1-6の培養は、10%FCSを含むMEM培地中、5%CO_2下、37℃で行った。次に、BT-Aを終濃度0.1μMで2.5×10^4cells/mlの3Y1細胞の培地中に添加して、上記条件下で一定時間培養後、細胞形態の変化を位相差顕微鏡で観察したところ、細胞の形態が大幅に変化することが認められた。これらの細胞をロ-ダミン・ファロイジン染色したところ、アクチンフェラメントからなるストレスファイバーが崩壊していることが明らかとなった。さらに培養を続けることにより、24時間以内に大部分の細胞は2核となったが、細胞質分裂が行われないまま、増殖は停止した。フローサイトメトリー分析で、正常細胞のG1期の核DNA量は細胞1個当たり2Cであったが、上述のようにBT-A処理した細胞では通常の2倍であった。したがって、この多核化現象は、核分裂終了後の細胞質分裂が、BT-Aによって阻害されたことを示唆する。次に、24時間処理した後の細胞からBT-Aを洗い流し、さらに培養を続けた。その結果、細胞形態は数時間後には復元し、20時間後には大部分の細胞は再び単核に戻っていた。フローサイトメトリー分析の結果、再増殖した細胞ではG1期で4C、さらにG2〜M期では8Cとなった。以上の結果は、アクチンフェラメントの形成が、細胞質分裂に必須であることを示唆する。
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