本研究の目的は燐酸化による転写調節因子の活性化過程をイメージングすることである。これまで遺伝子と転写調節因子との結合はゲルシフトなどで予測していたため、結合過程でいかなる形態変化が起こるかは不明であった。そこで、転写調節因子CREBについてはソマトスタチンの遺伝子5'側のプロモーター領域を含む約1000または800塩基を切り出し、結合させたあと、噴霧法によりマイカ劈解面上に展開し、低温低角度回転蒸着法により観察した。この方法により現在はDNAラセン構造の1/2ピッチ(5塩基対)を一つの単位として再現良く観察できるばかりでなく、最適な蒸着量の時は塩基対も観察できるようになった。多くの低角度回転蒸着像をもとにCREBの構造解析を試みた。リン酸化していないCREBではドメイン構造が明瞭ではなくまたDNAとの結合も余り頻繁には観察されないが、リン酸化することによりCREB分子内のドメイン構造が明瞭になる。CREB単量体は四つの大きなドメインからなることがわかった。また、DNAの結合は燐酸化により増強される。CREBは通常二量体で存在し全体として球形であるが、中心溝により大きく二分される。この中心溝の部分にDNA鎖が入るのであろうと考えられる。またbZIPの蒸着像と比べることにより、ロイシンジッパーがこの溝に面していることが明かとなった。
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