大腸菌RNAポリメラーゼαサブユニットのC末端領域は、cANP受容体蛋白(CRP)などの転写因子(クラスI転写因子)との蛋白-蛋白相互作用、およびプロモーターUPエレメントとの蛋白-DNA相互作用のいずれにも必須である。プロテアーゼ限定分解の結果から独立のドメインを形成していると考えられたC末端側97アミノ酸残基の領域に相当するペプチドを大量発現し、多次元NMRによる構造解析を行なった(本重点領域研究の京極、白川、山崎博士との共同研究)。構造が決定されたPhe^<249>からIle^<326>の領域(RMSD=0.67Å)は、4本のαヘリックスとその両端の2本のアームからなるコンパクトな構造をとっており、他のDNA結合蛋白との類似性はなかった。この構造の上で、蛋白-蛋白相互作用および蛋白-DNA相互作用に関わるアミノ酸残基を詳細にマップする目的で、260位から270位までを1個ずつトリプトファンに置き換えた変異体、258位から275位までと297位から298位までを1個ずつアラニンに置き換えた変異体、さらに最も重要と思われたArg^<265>を他の6種類のアミノ酸に置き換えた変異体を作成した。これらの変異サブユニットを精製し、in vitroでホロ酵素を再構成したのち、CRP依存性のlacプロモーターおよびUPエレメント依存性のrrnBP1プロモーターを用いて、in vitro転写およびDNaseIフットプリンティングによる解析を行なった。その結果、CRPおよびUPエレメントのいずれとの相互作用においても、ヘリックス1およびヘリックス4のN端領域にあって溶媒に露出しているアミノ酸残基、なかでもヘリックス1のN端に位置するArg^<265>、が重要な役割を果たすことがわかった。この結果は、蛋白-蛋白相互作用および蛋白-DNA相互作用の両者に同じ蛋白構造が関わっていることを示唆する点で興味深い。
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