植物器官の成長を、とくに細胞の体積増大をもたらす液胞の発達に注目し、液胞膜酵素を指標に細胞の成長と液胞発達の関係を明らかにすることを研究の目的とした。ヤエナリ実生の胚軸の成長過程を研究対象とし、H^+-ATPaseとH^+-ピロホスファターゼ(H^+-PPase)の遺伝子の発現・蓄積量を解析した。また、細胞成長に関わる水チャネルのクローニングも行い一次構造を明らかにした。 今回ヤエナリH^+-PPaseのcDNAをクローニングし一次構造を決めた。H^+-PPaseは766個のアミノ酸で構成され、13の膜貫通領域が確認され、H^+輸送阻害剤DCCDの結合部位、基質PPi結合部位と考えられるドメインが存在した。今回調製した基質結合部位に対応するペプチド抗体は、基質加水分解とPPi依存性H^+輸送を阻害し、この部位の触媒機能上の重要性が確認できた。なお、タンパク質、cDNAいずれにおいてもH^+-PPaseは1種類のみ検出され、胚軸にアイソフォームは存在しないと判断される。次に、発芽3日めのヤエナリ胚軸を分裂域、伸長域、成熟域に分け、RNAを単離し、cDNAをプローブとしてPPaseのmRNAを定量した。総RNAあたりでは分裂域、伸長域でmRNA量が多く、成熟域には少ない。5日めの胚軸ではさらに少なかった。成長により細胞が大きくなるので、DNA当たりの量を細胞当たりのmRNAとして比較したところ、伸長域が多く、5日めの成熟域はその5%であった。液胞膜H^+-ATPaseの触媒サブユニットでも同様の傾向が見られた。このことは、2つのH^+ポンプが、細胞伸長に先立ち分裂直後に大量に発現し、成熟が進むと発現量が抑制されることを示し、液胞膜H^+ポンプが細胞成長に大きく関わっていることを支持している。また、今年度ダイコンVM23のcDNAをクローニングした。253個のアミノ酸で構成され、Arabidopsisの水チャネル(γ-TIP)の配列と90%が一致し、MIPファミリーに共通なNPAVT配列も存在した。このほか、ヤエナリ胚軸の50kDの糖タンパク質が分裂域ではなく成熟域に特異的に蓄積することも見いだした。
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