ヒト発がんにおける複製・修復遺伝子の変異

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07272103
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 石川 隆俊 東京大学, 医学部(医), 教授 (30085633)
• 研究分担者: 中別府 雄作 九州大学, 生体防御医学研究所, 助手 (30180350) ; 鈴木 友和 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (20028517) ; 横崎 宏 広島大学, 医学部, 講師 (10200891) ; 秋山 公祐 岡山大学, 医学部, 助手 (30222540) ; 清水 憲二 岡山大学, 医学部, 教授 (10037286)
• キーワード: 遺伝子変異 / DNA複製 / DNA修復 / ミスマッチ修復 / MTH1遺伝子 / APエンドヌクレアーゼ / メチルトランスフェラーゼ / ヒト腫瘍

研究概要

本研究班ではDNAの複製や修復に関連した遺伝子群のうち、当研究グループ内の研究者によって単離された遺伝子を中心として、ヒト腫瘍試料及び一般人の対照DNAについて発癌とDNA複製・修復異常との関わりを検討することを目的としている。本研究班は多数のヒト腫瘍例を検索するグループと若年者癌及び多重癌患者等の特殊症例の検索するグループからなり、最終的には遺伝子産物での突然変異抑制能の検討までを行う。本年度は遺伝子変異検索の為の研究試料入手システムの確立並びにスクリーニング法の検討を中心に複製・修復に関わるミスマッチ修復遺伝子(hMSH2,hMLH1,hPMS1)、APエンドヌクレアーゼ(APEX)遺伝子、DNAポリメラーゼβ遺伝子、O^6-メチルグアニンDNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)、8-oxo-dGTPase(MTH1)遺伝子について遺伝子変異検索を行った。岡山大学では腫瘍バンクが設立され、26種類370症例の腫瘍組織、対照正常組織について新鮮凍結材料が収集され、DNA及びRNAレベルでの解析が可能となった。遺伝子変異解析の結果、腫瘍特異的な遺伝子変異は発見されなかったが、APEX遺伝子(1例)、MGMT遺伝子(4例)、MTH1遺伝子(4例)で多型が見出された。また、見出された多型に関し、突然変異抑制活性能についての検索も同時に進めている。その結果、MGMT遺伝子コドン160に認められた多型は大腸菌発現ベクターを用いた修復酵素活性測定から有意な差は認められなかった。また、肝癌患者癌組織2例で認められた8-oxo-dGTPase(MTH1)遺伝子のコドン83のアミノ酸変化(ホモ接合体)は大腸菌細胞内で発現させた場合、突然変異抑制機能は正常型よりも低く、不安定であることが明らかとなった。その他DNAポリメラーゼβ遺伝子についてウェルナ-症候群患者並びに胃癌細胞株で正常細胞には認められない多様なmRNAが存在し、酵素活性は認められるもののフィデリティーの低い非特異的なヌクレオチドを取り込むことが報告されているが、本研究班においても同様の結果を得、現在腫瘍での検索を行っている。

研究成果

• [文献書誌] Oda, H, Ishikawa, T., et al.: "Mutation of the p53 gene and p53 protein overexpression are associated with sarcomatoid transformation in renal cell carcinoma." Cancer Research. 55. 658-662 (1995)
• [文献書誌] Wada, H., Shimizu, K., et al.: "Rejection antigen peptides on BALB/cRL♂l leukemia recognized by cytotoxic lymphocytes: Derivation from the normally untranslated 5′ region of the c-akt Proto-oncogene activated by long terminal repeat." Cancer Research. 55. 4780-4783 (1995)
• [文献書誌] Saker, A. H., Akiyama K., et al.: "Purification and characterization of an AP endonuclease/DNA 3′repair diesterase from mouse ascites sarcoma cells." Biochem. Biophys. Acta. 1245(3). 299-304 (1995)
• [文献書誌] Higashikawa, K., Yokozaki, H., et al.: "Evaluation of CD44 transcription variants in human digestive tract carcinomas and normal tissues." Int. J. Cancer. 64(in press). (1996)
• [文献書誌] Otsuka, M., Suzuki, T., et al.: "Polymorphism in the human O^6-methylguanine-DNA methyltransferase gene detected by PCR-SSCP analysis." Pharmacogenetics. (in press).
• [文献書誌] Kang, D., Nakabeppu, Y., et al.: "Intracellular localization of 8-Oxo-dGTPase in human cells,with special reference to the role of the enzyme in mitochondria." J. Biol. Chem.270. 14659-14665 (1995)
• [文献書誌] Yokozaki, H. and Tahara, E.: "Non-isotopic Methods in Molecular Biology: A Practical Approach" IRL Press, Oxford, 201-212 (1995)
• [文献書誌] 石川隆俊: "ジーンターゲッティングと疾患解明(矢崎義雄編)" 羊土社, 157 (1995)