研究概要 |
アミノ酸を基質とする抗脂肪肝因子欠乏食(コリン欠乏-低メチオニン-アミノ酸食)(CDAA食)によるラット肝硬変、肝発癌及び酸化性DNA傷害誘発機構へのアラキドン酸(AA)カスケードの関与機構について検索してきた。これまでにcyclooxygenase(COX)阻害剤のaspirinはこれら全ての病変の誘発を抑制し、lipoxygenase阻害剤のnordihydroguaiaretic acid(NDGA)は肝発癌のみを抑制する事、また別のCOX阻害剤のindomethacin(INDM)はいずれも抑制しない事を報告した。本年度は、aspirinとINDMの効果の矛盾を追求する為、他のCOX阻害剤であるpiroxicam(PIROX),ibuprofen(IBUPRO),低用量のINDM,及びaspirinと共に転写因子NF-kB活性化阻害効果が指摘されている抗炎症剤のNa salicylate(SS)とFN-kB活性化阻害剤のpirrolidine dithiocarbamate(PDTC)を用い、これら病変の誘発に対する修飾効果について検索し、以下の結果を得た。 1.PIROX(0.01,0.02,0.04,0.06%)は、0.04%以上の用量にてaspirinと同様にCDAA食によるラット肝硬変、肝前癌性病変、酸化性DNA障害(8-OHdG)及び肝細胞壊死の誘発をいずれも抑制する事が判明した。 2.IBUPRO(0.02,0.04,0.06%)は、0.06%の高用量でのみ肝前癌性病変、8-OHdGを抑制し、肝硬変の線維性隔壁の狭小化を見た。低用量のINDM(0.001,0.002,0.004%)はいずれに対しても修飾効果を示さなかった。 3.SS(0.1,0.2,0.3,0.5%)は用量依存性に肝前癌性病変の誘発を抑制した。 4.PDTC(0.05,0.1,0.2%)は、肝前癌性病変、肝の線維化、8-OHdGの誘発をむしろ亢進せしめた。 5.NDGA(0.2%)は肝細胞壊死の誘発を抑制した。 以上の結果より、COX阻害剤の中で不可逆的阻害剤であるaspirinと半減期が非常に長いPIROXがCDAA食によるラット肝硬変、肝発癌、酸化性DNA傷害、肝細胞壊死の誘発を抑制する事が判明し、CDAA食によるAAカスケードの亢進がこれら病変の誘発に関与し、亢進したAAカスケードを抑制せしめるにはかなり高濃度の強い阻害剤が必要である事が示唆された。また肝発癌機構にはCOX以外にNDGA,SSによっても抑制される別の機構の存在も示唆された。
|