正常細胞と癌細胞の大きな違いの1つはプラスチックdish上での増殖態度にはっきり現われる。正常細胞は、まばらな状態では盛んに動き回りながら、分裂を繰り返すが、細胞同士の接触と共にお互いの細胞運動を停止し、増殖を停止する。一方、癌細胞では、細胞接触後も細胞運動、増殖とも停止することなく増え続ける。本研究では、細胞運動に高感受性の細胞を用いて細胞接触後の細胞運動-細胞増殖停止機構をさぐり、関連する蛋白遺伝子を同定することを目指した。細胞運動(Membarane Ruffling)の測定は増殖因子刺激後、顕微鏡下で写真を撮り、単位面積当たりのrufflingの数を測定した。リン酸化蛋白の解析は細胞を^<12>P無機リン酸でラベルし、増殖因子刺激後、cell lysateを作り、1次元、2次元蛋白電気泳動法で、リン酸化蛋白を調べた。また、抗ホスホチロシン抗体を用いて特異的にチロシン残基がリン酸化された蛋白を検出した。 TPAによる細胞癌化に高感受性のBalb/c3T3TR4細胞が、細胞接触による増殖停止後も自発的な膜運動能(Membrane Ruffling)を持っていることを見い出した。この性質はPDGF、やInsulin、FGFなどチロシンキナーゼ型受容体をもつ増殖因子による刺激で強く増強された。この変異株と親株Balb/c3T3A1-1-1との比較で生化学的に分析したところ、膜蛋白質のいくつかにチロシンリン酸化の変異が見い出された。これらは、p38、p66、p85、p160、であった。そのうち、p160は親株では、PDGFで強くチロシンリン酸化されるが、TR4ではわずかしかリン酸化が認められなかった。この蛋白を部分精製し、解析したところα型のPDGF受容体そのものであることが判明した。
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