ヒト悪性腫瘍の中でもとりわけ悪性神経膠腫はその予後が不良で、これまで手術・放射線化学療法・生物学的変調療法が行われてきたが、それでも再発は免れず、生存期間中央値として50-60週というのが従来の成績である。また近年脳腫瘍に対する遺伝子治療の適用が米国を中心に盛んに行われるようになってきたが、この治療法もヒトの脳腫瘍に対しては必ずしも期待通りの成果を上げておらず、脳腫瘍治療の困難さを改めて印象づけると共にさらに新しい治療法の開発が望まれるようになってきた。そこで我々はアポトーシスを利用した悪性腫瘍に対する新規治療法の開発を行っているが、その過程で我々が単離したs-myc遺伝子の発現によってグリオーマ細胞の免疫原性が活性化されることを見い出した。今回その活性化の機序を調べるため、まず、s-Mycの転写因子としての機能を調べた。その結果s-Mycはc-Mycと同様塩基配列特異的転写活性化因子であることが明らかとなった。そこで塩基配列特異的DNA結合能・転写活性化能を失った変異体を作成し、野生型s-Mycとの間で細胞死誘導能および免疫原性活性化能における相違点とを検索した。その結果、塩基配列特異的DNA結合能を欠いたs-MycmBRには細胞死誘導能がなくなっていることが判明した。この事実はs-Mycによる細胞死誘導にはs-Mycのもつ塩基配列特異的DNA結合能とこれに基づく転写活性化能が必要であることを示唆している。また、s-MycmBRには野性型s-Mycと異なり、遺伝子導入したグリオーマ細胞の移植により担グリオーマラットの生存期間を延長したり、腫瘍の進展を抑制するなどの能力が欠けていることがわかり、s-Mycによる免疫原性活性化にも細胞死誘導と同じ機能ドメインの発現が要求されることが明らかとなった。
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