中等度好熱菌PS3細胞質膜に存在する二次性能動輸送系の一つ、アラニン能動輸送タンパク質(ACP)はNa^+あるいはH^+とアラニン、グリシンなど小型中性アミノ酸の共輸送を仲介する膜タンパク質である。本研究はこのタンパク質の構造と機能の協関を物理化学的手法によって解明することを目標とし、そのためにこのタンパク質の大量発現系を確立することを目的とした。 これまでに、ACPをコードする遺伝子(acp遺伝子)がクローニングされ、大腸菌機能変異株を用いた機能発現系が確立されているので、本年度はまずACP発現に適した発現ベクターを選択し、大腸菌内で組み換えタンパク質を大量発現する系について検討を行った。その結果、ACPとマルトース結合タンパク質(MBP)との融合タンパク質(MBP-ACP)を発現するようなプラスミドがACPの大量発現系構築に最も都合の良い発現ベクターであることが分かったのでこれを用いて解析を進めた。MBP-ACP融合遺伝子を大腸菌アラニン、グリシン輸送能欠損株(RM1株)に導入しその^<14>C-グリシン輸送能を測定したところ、興味深いことにMBP-ACPの融合タンパク質の状態で輸送活性を持つことが分かった。この融合タンパク質は基準特異性やKt値についてはACPと変わらなかったが、本来は高温(45〜50°C)にあるべき輸送活性の温度依存性は失われていた。この融合タンパク質の発現は細胞毒性を与えるので、これを克服し大量に発現タンパク質を得る条件を探索し全膜タンパク質の約25%を越える量の発現条件を確立することができた。大量に発現したタンパク質を精製し、輸送活性を指標としたプロテオリポソームへの再構成実験で調べたが、現時点ではnative ACPに見られる活性の1%以下の活性しか見られず、種々のデータからかなり強固な封入体として存在していることが予想された。
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