本研究ではIRK1遺伝子のコードするチャネルについて、その機能と構造との関連を調べることにより、チャネルの強い内向き整流性を担う分子構造を明らかにすることをめざした。IRK1遺伝子を電位依存性チャネルを有さない線維芽細胞株に発現させ(IRK1チャネル)実験を行った。先ずIRK1チャネル電流は心室筋の内向き整流カリウムチャネル電流と性質が極めて類似していることを明らかにした。すなわち、IRK1チャネルの強い内向き整流性を担うのは無機イオンによるブロックとは異なるチャネル開閉機構であり、また生理的濃度の細胞内遊離マグネシウムは脱分極中にこれと拮抗的に働きながら電流をブロックした。次に生理的な細胞内有機陽イオンであるポリアミンが内向き整流カリウムチャネルをブロックすることはすでに報告されていたが、私どもはIRK1チャネルの開閉機構がポリアミンの中でも4価の陽電荷をもつスペルミンブロックを反映することを明らかにした。また、スペルミンと共に3価や2価の陽電荷をもつスペルミジンやプトレッシンが存在すると、これらもIRK1チャネルをブロックしたが、より親和性の高いスペルミンブロックによって時間とともに置き換えられていくことも見い出した。生理的濃度の細胞内マグネシウムによるIRK1チャネルのブロックもこれと同様、脱分極中にスペルミンブロックによる閉状態へと移行し、これらの現象は特に長い活動電位を保つ心室筋で重要な意義を持つと考えられた。さらにIRK1チャネルの推定上第2番目の膜貫通部位に位置する陰電荷を点変異により中和すると、スペルミンやスペルミジンとIRK1チャネルとの結合が弱まり、プトレッシンやマグネシウム同様にブロックからの解放が非時間依存性に起こる様になった。従ってこの陰電荷はIRK1チャネルが複数種の分子と極めて異なる親和性を保つために重要な構造であることがわかった。
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