我々は次の2つの作業仮説をたてた。(1)ヌクレオキャプシド(NC)タンパク由来の部分ペプチドをHIV感染細胞中で発現させると、ネイティブなNCタンパクのウイルスRNAとの結合能が競合的に阻害され、ウイルスRNAのパッケージングを抑制することができるであろう。(2)ネイティブなNCタンパクの配列を除き、代わりに特異的結合能を消失させた変異NCタンパクを挿入したGag前駆体タンパク(変異Gag前駆体タンパク)発現細胞にウイルスを感染させると、産生されるウイルスには量比で圧倒的に多いと考えられる宿主細胞由来のRNAをパッケージングさせることができるであろう。 本研究では、上記の仮説を検証することを目的としている。そこで、今年度は、ウイルスRNA及び非特異RNAとNCタンパクとの結合性から、その特異性を解析し、上記変異タンパクのデザイン決定を行いたい。以下に現在までの研究の進展状況を述べる。 1.HIV-2のPrimer binding site(PBS)、Packaging Signal(PSI)及びgag(PBS及びPSIを含む)領域に相当する^<32>P標識ウイルスRNAをin vitro-synthesis法で作製し、NCタンパクの部分合成ペプチドとの結合性をUVクロスリンキング法を用いて検討した。その結果、gag領域RNAとNCタンパクの両zinc finger motif(ZFM)に相当するペプチドとの結合には特異性が認められた。更に、PSI領域とNCタンパクとの結合にも特性が認められた。また、Gag前駆体を用いることにより、各領域RNAとの結合の特異性が上昇するかどうか検討中である。 新たな取り組みとしては、NCタンパクの宿主細胞内でのプロテアーゼに対する安定性を検討するために、タンパク分解酵素を含むと考えられる細胞抽出液でNCタンパクの部分合成ペプチドを処理し、ペプチドシークエンサーによりNCタンパク分子上のクリベ-ジ部位を同定した。この研究は、細胞内で発現させた変異NCタンパクの安定性を増強させるための基礎検討として行ったが、更に踏み込んで、ウイルスRNAへのNCタンパクの結合による逆転写阻害について検討中である。また、この研究の結果をまとめた論文の投稿を準備している。
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