研究概要 |
本年度は,HIV-1のvif遺伝子に焦点を当て,vif遺伝子に変異を導入したときのウイルスの増殖性の変化を解析し,Vifタンパク質の構造と機能の相関を考察した。 変異ウイルスは,HIV-1 pNL432を親クローンとして用い,アミノ酸の置換変異を4種,in-frame挿入変異を6種,欠失変異を2種の合計12種類を作製した。作製した変異ウイルスDNAをSW480細胞に導入し,これより産生されたウイルスを,H9細胞に感染させた。H9細胞の培養上清中の逆転写酵素活性を測定することにより,ウイルスの増殖を定量した。その結果,増殖パターンは(1)親株NL432と同様に良く増殖するもの2クローン,(2)遅れて増殖してくるもの2クローン,(3)全く増殖が見られないもの8クローンの3つに分かれた。 これらの変異ウイルスの増殖性(Vif機能)をそのVif構造との関連で考察すると,次のようにまとめることができる。 (1)アミノ酸挿入によりウイルスが完全に増殖不能となる部位が,Vifタンパク質分子中に分散して存在する。これらの部位は,機能発現に必要なVif分子の高次構造形成に寄与していると思われる。 (2)C末端の8アミノ酸(185〜192位)は不要である。 (3)「Vif=システインプロテアーゼ」説で注目を集めた2個のシステインの役割に関し,114あるいは133位のシステインの内ひとつでもイソロイシンに変えると,ウイルスが全く増殖しなくなることが他の研究者より報告されている。本研究では,これらシステインをセリンに変えた結果,114位変異体は育たず,このシステインの重要性が確認された。しかし,133位変異体は遅延がみられるものの増殖はしているので,Vif機能にとって不可欠ではない思われる。 (4)88位のグルタミン酸の欠失で,ウイルスが完全に増殖不能となった。このアミノ酸が必須なのか,あるいは単にスペーサーとして機能するだけなのか等は,更に研究が必要である。
|