研究概要 |
シナプス活動による神経の可塑的変化は、発達期における神経回路網の形成だけではなく、記憶や学習などの脳の高次機能の素子過程と考えられる。シナプスの可塑性には伝達効率の変化だけでなく、シナプス結合の形態学的変化の伴い、特に記憶の長期的保存(LTPの第3相)には後者の方が重要な役割を果していると考えられる。本研究ではそれらの新しい遺伝子(可塑性遺伝子)を単離し、遺伝子産物の生理学的機能を明らかにすることを目的とする。 海馬のcDNAライブラリーから、subtraction-differential hybridization 法を用いて、電撃痙攣刺激後、急速に誘導される新しいlmmediate Early Gene(lEGs)を見いだした。これらは電気ショックだけではなく、LTPを誘導するテタヌス刺激やNMDA受容体遮断薬で発現量が調節されることから、可塑性遺伝子と考えられる。15EA03:今年度は新しい可塑性遺伝子二つを解析した。一つはarc(activity-regulated cyoskeleton associated protein)と名付けた遺伝子で、スペクトリンに相同性のある蛋白質をコードし、F-actinと共沈した。またmRNA、蛋白質共にに海馬の樹状突起層で誘導されることから、樹状突起の新しい細胞骨格調節蛋白質と考えらた。さらにコカインやアンフェタミン投与でも線条体を中心に誘導され、てんかんや薬物依存で見られる異常なシナプス結合の形成に関与していると考えられた。Arcの生理機能をより明らかにするために、yeastのtwo-hybrid systemを用いて、結合蛋白質のcDNAを海馬のライブラリーからクローニングした。Arc蛋白質と結合するcDNAの翻訳産物は、Arc抗体でArcとともに共沈した。このcDNAは250個のアミノ酸からなる、分子量27,832、等電点4.8の蛋白質をコードし、DNA結合蛋白質との相互作用が認められた。Arc蛋白質は樹状突起だけではなく、核内でも発現しており、DNA結合蛋白質との相互作用を介して転写のmodulaterとして機能している可能性も示された。 また、別の遺伝子♯8については、現在シークエンスを解析中である。
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