研究概要 |
私達は分子生物学的手法により、中枢神経系に発現するコレシストキニン(CCK)-B受容体を介する細胞内シグナル伝達機構は、イノシトールリン酸産生や細胞内Ca^<2+>を上昇させるのみならず、c-fos, c-myc, c-junなどの初期応答遺伝子の誘導、Ras-MAPキナーゼ経路や低分子量G蛋白Rhoを活性化、p125^<FAK>(Focal Adhesion Kinase)およびpp60^<c-src>などの細胞質蛋白のチロシンリン酸化を誘導することを明らかにした。すなわち、複数の三量体G蛋白を介したCCK-B受容体からのシグナルはチロシンキナーゼ型増殖因子やインテグリンなどの細胞接着因子受容体の細胞内シグナル伝達系とクロストークし、細胞の増殖および分化の制御にも関与していると考えられる。例えば、大脳CCK-B受容体は胃ガストリン受容体と同一の受容体であり、リガンド依存性に細胞増殖促進作用や細胞骨格再構成能を持つことをみいだした。また、これら脳腸管ペプチドは内分泌ホルモンとしてばかりではなく、パラクリンまたはオートクリン機構により様々のヒト腫瘍細胞株の増殖促進にも関与していることも報告した。CCK-B/ガストリン受容体を介する細胞増殖能の個体における生理的意義を明らかにするために、本受容体遺伝子ノックアウトマウスの作成を試みた。私たちは、世界で初めて2系統のCCK-B/ガストリン受容体遺伝子欠損マウスの作成に成功し、本受容体は胃粘膜のクロモグラニンAやHDC陽性の神経内分泌細胞などの生理的増殖制御に中心的役割を担っていることを見いだした。すなわち、ホモマウスでは、高ガストリン血症とともに胃粘膜の著明な萎縮が観察された。これまでにも、G蛋白共役型受容体に作用する種々の神経伝達物質やペプチドホルモンがin vitroにて細胞増殖能を示すことが報告されてきたが、CCK-B/ガストリン受容体が成熟個体において生理増殖制御に重要な働きをしていることが証明された初めてのG蛋白共役型受容体である。
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