神経可塑性に関わる情報伝達機構の解明を目指して、キナーゼ結合タンパク質の検索をヒト脳cDNAライブラリーにおいて酵母Two-hybrid systemを利用して行った。可塑性への関与が指摘されているPKCεのキナーゼドメインをプローブとしたスクリーニングでは最終的に新規タンパク質εBP1のクローニングを完了し、その機能解析を進め、現在論文化を急いでいる。また、我々が新規に同定したMAPKKKホモログであり、JNK活性化に関わっていることが最近明らかとなったMUKをプローブとしたスクリーニングでは、現在9種以上ののポジティブクローンを同定するに至っており、最終的なクローニングを進行中である。前者のεBP1は、脳・筋肉を中心に普遍的に発現しており、近年新しいタンパク-タンパク相互作用interfaceとして注目されてきているBTB/POZドメインを含むタンパク質ファミリーの一員であることがわかった。このファミリーは、このドメインのホモ/ヘテロ多量体形成活性を介して細胞内で大きな構造体を形成し、クロマチン構造制御を通じた遺伝子発現制御、あるいは細胞骨格系の形成に関与していることが指摘さている。εBP1をCOS細胞に強制発現させた場合、アイソフォーム依存的にBTB/POZドメインタンパク質に特徴的といわれる核内粒子構造や細胞質の繊維状の会合体への局在を示し、また、Hela細胞などの内在性のεBP1は主として核周辺の線維様の構造への局在を示した。活性型PKCε変異体を共発現した場合、これらの外来性、内在性のεBP1が局在する構造体にPKCεが強く取り込まれることから、このタンパク質は活性化したPKCεの局在を規定する構造タンパク質であると思われる。PKCεが濃縮しているといわれるシナプス前膜において小胞分泌などに関与して機能している可能性を視野に入れ今後研究を進めていく予定である。
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