研究概要 |
視蓋の吻尾極性の形成にはengrailed(en)遺伝子が重要な働きをしていることが、我々の研究により明らかにされている。本研究ではenを中心とする遺伝子発現制御のカスケードを明らかにする目的で中脳胞(視蓋原基)の吻側、尾側それぞれのcDNAライブラリーを作製し、サブトラクション法によりそれぞれで特異的な発現する遺伝子をクローニングし、レトロウイルスベクターを用いた強制発現法によりen遺伝子との関係を追究した。 サブトラクションにより、中脳後脳境界部で発現している遺伝子としてpax-5がクローニングされた。pax-5遺伝子は孵卵2日目(E2)で10体節期頃には中脳後脳境界部に発現しており、E4では中脳後脳境界部で強く、前の方に向かうに従って弱いという勾配を持って発現している。en-2の発現と重なるような発現パターンであるが、発現の開始はen-2の方がちょっと早い。pax-5はショウジョウバエのペアルール遺伝子pairedと相同な遺伝子であり、ショウジョウバエでのヒエラルキーではenよりも上位にあると思われる。そこでpax-5をRCASレトロウイスルベクターに組み込み強制発現させて、enの発現パターンを調べてみた。pax-5を強制発現させた後、en-2の発現を抗en抗体による免疫染色で、pax-5の発現をin situハイブリダイゼイションで検出した。おもにwhole mountによる染色を行った。 レトロウイルスによる強制発現により視蓋原基の前の方でもパッチ状に強く発現しているところが見られた。pax-5を異所的に強制発現させられた一部の細胞でenの異所的な発現が見られた。enの異所的発現は間脳の背側の一部の細胞で見られた。ここではいくつかの細胞がpax-5,en-2両遺伝子ともに発現していた。この実験結果はpax-5はen-2を発現させるよう促進的に働く因子であることを示している。ただし、pax-5を発現したすべての細胞がen-2を発現したわけではないのでen-2の発現にはpax-5とさらに別の制御因子が働く必要があることを示唆している。
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