研究概要 |
これまでに、誕生直後のラットの脊髄、反対側半球、上丘にDiIを注入し、大脳皮質を観察した結果、Bayer,Altmanの分類によるSubplateよりも脳室側に位置し、Intermediate Zone(IZ)に相当する領域にある細胞が逆行性に標識されてくることを発見した。この標識された細胞が神経細胞であることを確かめるために、DiIを光退色させることによりDAB反応産物に置き換え、神経細胞特異的抗原MAP2に対する免疫組織科学を重ねて行った二重標識により、神経細胞であることを確認した。加えて、IZにある神経細胞の多くは、BrdUの取り込み実験と抗MAP2抗体による免疫組織科学二重標識により、E13,E14に最終分裂し、第5層神経細胞よりも早く誕生していることが確かめられた。さらに脊髄投射について、IZ神経細胞が第5層神経細胞より早く、皮質脊髄路を下降していることを、新生児ラットの脳で、DiIの注入部位を変えたり、胎児の脳にDiIを注入することにより調べた。生後0日ラットの頸髄にDiIを注入した際には、IZ神経細及び第5層神経細胞が同時に逆行性標識されてきたが、生後0日ラットの腰髄にDiIを注入した際には、IZ神経細のみが逆行性に標識されてきたことから、IZ神経細胞は第5層神経細胞より早く、腰髄に投射すること、IZ神経細胞は腰髄に至る軸索を持つことが明らかとなった。さらに胎児ラット脳の橋核にDiIないしはBDAを、E19に注入することにより、IZ神経細胞のみが逆行性に標識されてきた。第5層神経細胞は、橋にE20到達することが知られているので、IZ神経細胞は第5層神経細胞よりも早く、橋核に至ることが分かった。固定した胎児E14の脳の内包にDiI結晶を挿入することにより、Subplate neuronが逆行性に染色されることが知られているが、同時にIZ神経細胞も染色されてくることから、この時期既にIZ神経細胞は内包にまで軸索を伸ばしていることが分かった。以上の実験から、IZ神経細胞は、皮質錐体路の何れの部位においても、第5層神経細胞に先行して軸索を伸ばしていた。以上のことから、ラットではIZ神経細胞が、皮質脊髄路形成のためにパイオニア神経細胞として働いている可能性が示唆された。
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