我々は、これまで高度好熱性細菌Thermus flavusの有する耐熱性リンゴ酸脱水素酵素(tMDH)の耐熱性や、高温下に反応至適を示す好熱性メカニズムについて研究を行ってきた。野性型tMDHは高い安定性を示すと同時に、塩酸グアニジン変性に対しても完全に可逆的に再生され、そのフォールディング機構の解析は、tMDHの高い安定性を理解する上で重要な知見を与えるものと考えられた。そこで本研究では、本酵素をドメイン或いはさらに小さなフラグメントに遺伝子工学的に分断して、そこから再構成されるtMDHの安定性やリフォールディング能について調べることで、蛋白質の折りたたみ機構を解析することとした。NAD結合ドメインと触媒ドメインの2つのドメインから成り立つ本酵素を、ほぼ各ドメイン部分に相当する領域の遺伝子ごとに分断して独立に発現することにより、野性型酵素と完全に同等の活性を有する耐熱性MDHが再構成されることを見いだした。また一方で、この独立したドメインで構成されるtMDH及び各ドメインが、塩酸グアニジン変性に対してどのような再生効率を示すかを調べたところ、再生効率は野性型酵素と比べて大幅に小さく、さらに濃度依存性を示したことから、各ドメインが、協調的にフォールディングする可能性が考えられた。SDS-PAGEからの回収により、各ドメインを分離し、それぞれのドメインを用いた折りたたみ実験を行った結果、やはり再生の協調性がみられたことから、各ドメインが自立的にフォールディングするわけではない可能性が示唆された。現在正確に各ドメインに分断したフラグメント酵素を作製中であり、フォールディングの協調性についての詳細な解析を進行中である。
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