研究概要 |
反応至適条件であるpH7.5で結晶化したグルタチオン合成酵素の立体構造を決定し、それをpH6の立体構造と比較した。分子全体として比較すると2つの構造で主鎖のfoldや2次構造要素にほとんど違いはみられなかった。しかし、それぞれの構造でCα-Cα原子間の距離を計算し、2つの構造でそれらの差をプロット(difference distance plot)すると、pH7.5では3つのドメイン(N-末端、中央、C-末端ドメイン)のうち中央ドメインだけが、局所的に主鎖が少しずれたり、ドメイン全体が剛体(rigid body)としてN-末端ドメインのほうへ移動(domain movement)していることがわかった。グルタチオン合成酵素の3つのドメインはいずれもβ-sheetとα-helixから構成されており、N-末端ドメインは平行β-sheetから、中央とC-末端ドメインは逆平行β-sheetからできている。このような主鎖のfoldの組み合わせは他の蛋白質に見られない珍しいものである。ところでドメインが蛋白質の構成単位であるとすれば、これらに類似したドメインが他の蛋白質にも存在しているのかどうか、また、それが酵素機能の単位であるのかどうか調べるために、至適条件下のグルタチオン合成酵素の構造をこれまでに知られている294個の蛋白質の立体構造と比較し、類似性を探した。構造比較には2次構造要素の空間配置の類似性を検出するアルゴリズムCOSEC(Mizuguchi & Go 1995)を用いた。その結果、ドメイン2つ以上にわたって、極めて高い類似性をしめした蛋白質はD-alanine:D-alanine ligase,succinyl-CoA synthetase β-subunit,acetyl-CoA synthetase biotin-carboxylase subunitの3つであった。いずれもグルタチオン合成酵素のATP-結合サイトの立体構造と類似性を示し、2次構造要素のアミノ酸配列上での順番(topology)も同じであった。さらにこれら4つの酵素が触媒する反応ではいずれも、ATPとカルボン酸を基質としてアシルリン酸中間体を経て反応することが確認あるいは推定されている。このような構造および機能の共通性から、4つの酵素は共通の祖先から進化してきたものと推定される。しかし、ATP結合ドメインが逆平行β-sheetで構築されているprotein kinase CなどのATP関連蛋白質とは立体構造の有意な類似性はみとめられなかった。
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