研究概要 |
蛋白質がその自然の特異的立体構造へいかに折れたたまれていくか、その機構を調べることは重要であるが、それは蛋白質分子の複雑さゆえにとても難しい問題である。特に、シミュレーションで理論的に研究するには、系にエネルギー極小状態が無数に存在するために、従来の手法では、全エネルギー空間をカバーすることは不可能であり、まともな結果を期待するのは絶望的となる。よって、シミュレーションがエネルギー極小状態に留まってしまわない、新しいアルゴリズムの開発が重要となる。我々は、数学的に蛋白質の立体構造予測と同じぐらい難しい、他の分野の問題(例えば、物理学における、スピングラスの問題)において開発された、徐冷モンテカルロ法(Monte Carlo simulated annealing)やマルチカノニカル法(multicanonical algorithms)などの新最適化アルゴリズムを適用することを提唱してきた。これまで、これらの手法の有効性を確かめるために、主に、小ペプチド系でシミュレーションを行ってきた。本年度は、まず、無極性アミノ酸(Ala,Val,Gly)のホモポリマーにおいて、マルチカノニカル法によるシミュレーションを行った。そして、αヘリックス形成傾向性やヘリックス状態と非ヘリックス状態との自由エネルギー差などの種々の熱力学量を温度の関数として求め、実験からの示唆と定性的に一致することを示した。次に、やきもどし法(simulated tempering)や1/k法などの新アルゴリズムとマルチカノニカル法との有効性を、5個のアミノ酸からなる小ペプチドであるエンケファリンにおいて比較した。結論は、これら3つの方法が大体同じ程度の有効性を持つことを示せたことである。
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