始原生殖細胞(PGC)は生殖系列の最も初期に出現する細胞であり、マウスでは原腸胚形成時に初期未分化細胞である胚体外胚葉から分化してくるとされている。したがって、PGCにおける遺伝子発現プロファイルを詳細に比較検討することにより、生殖細胞分化過程および体細胞-生殖系列の分岐に関しての分子レベルでの知見が得られることが期待される。しかし、PGCというごく少数の細胞を単離し、直接そこに発現する多数の遺伝子を解析するのは通常の手法では大変困難であった。そこで今年度は初期のステージよりマウスPGCを単離する技術を確立することを第一義的な目標とし実験を行ってきた。具体的にはPGCのマーカーであるアルカリフォスファターゼ遺伝子をlacZ(大腸菌β-ガラクトシダーゼ)遺伝子で置換したTNAP(組織非特異型アルカリフォスファターゼ)ノックアウトマウス(TNAPKO)を用い、lacZ発現を指標としてPGCを分離、純化する方法を開発した.方法としては、PGCを含む胚体組織をTNAPマウスから取りだし、トリプシン処理、ピペッティングにより解離し、浸透圧ショックによりb-ガラクトシダーゼの基質であるFDGを細胞内に取り込ませた。FDGがb-galと反応すると蛍光を発することを利用し、セルソーターを用いてlacZ陽性細胞を検出、単離し、陽性細胞の性質を検討した。実際にソーティングにより蛍光陽性の細胞を単離し、アルカリフォスファターゼ染色をすると蛍光陽性細胞の95^〜98%が染色させることが判明した。染色される細胞は、比較的大きく丸い形状のもので、核が著しく大きい、という典型的な始原生殖細胞の形態を持つことが確かめられた。また、PGCの増殖に必須なチロシンキナーゼであるc-kitの抗体で染めたところ、やはり^〜98%の細胞が染色された。これらの結果より、レポーター発現を指標としたフローサイトメトリー法により、従来の方法では得ることができなかった、非常に高い純度の幹細胞を単離し得ることが明らかになった。現在はさらに初期のPGC単離のための条件検討を行うとともに、12.5日胚、13.5日胚由来のPGCを単離、プールしており、これを用いたcDNAライブラリー作製の準備を行っている。
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