研究課題
18・19・20世紀の三つの世紀末に共通する問題は、端的にいえばある種の思想の危機である。その思想的危機を本研究は芸術の視点から把え、昨年度の成果として「芸術における近代」が問い直されている実態を明らかにした。本年度は、美術における絵画ジャンルの崩壊、音楽における古典性の相対化、文学における小説の袋小路を、各分担者が詳細に解明し、新たに参加した分担者によって美術史理論の新展開と映像表現の未来を展望することになった。芸術はみな「メタ芸術」を志向し、未来を現在にひきよせるようにして、過去に未来の「前形成」を探る状況が露わになっている。本研究は近代を否定することなく、しかもポストモダンの先走りに与することもない「プレ・ポストモダン」の概念を確立した。その成果を一言でいえば、啓蒙的近代を美的に克服する端緒を開いたということになろう。そのように美的克服の可能性を展望するなかで追求することになったのが、「対立文化」の芸術である。「近代」はすこぶる西欧的な概念である。本研究はそれを通時的に把えてきた。だが、その克服と対いあうに際して共時的に近代を把握しなおしたところ、「対決を伴う文化融合(トランスカルチュア)」の構成要素として、これまで周縁文化と呼ばれてきたものの「文化-内-受容(インカルチュアレイション)」を考慮しないわけにはいかなくなったのである。例えば、西欧から見れば、日本文化も周縁文化の一つである。そこで本研究は、近代の、また日本のカウンターパートとしての沖縄文化などをも視野に入れながら、近代の美的克服の通時的かつ共時的探究の新展開に精力的に対応している。
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