研究課題
本研究は、「現代日本社会に於ける都市下層社会に関する事象を出来るだけ網羅的に取り上げ、その現実の解明に努める」ことを共通の課題とした共同研究である。とりわけ、都市下層社会と社会的差別の関係性について、「都市問題」「労働問題」「政治問題」の3つの視点からの総合的な分析を目指したものである。以下、主な知見をあげる。1、まず、全体に通ずることとして、都市下層の概念は、何らかの財、機会あるいは権利の欠乏・欠如を前提としつつ、この社会において異質化され、排除されたカテゴリーとして捉える必要性があること、従来、ともすれば、都市下層のなかに病理性や問題性を見ようとする研究もあったが、肝要なことは、都市下層の視点から現代社会の病理性や問題性を照射することであると、本研究は主張している。2、本研究は、特に1990年代に入り可視化してきたホームレスおよびそれと関連が深い「寄せ場」の現状分析に重点を置いている。新宿、山谷、川崎、寿、笹島、釜ケ崎などの各地域での社会調査を通して、ホームレスの増加や可視化は、都市化および都市の変容、寄せ場における労働市場の変容、「住所不定者」に対する福祉行政の差別的対応といった「都市問題」「労働問題」「政治問題」として現出してきたことが明らかにされている。3、現代の都市下層問題は、日本社会の国際化(1970年代以降の日本資本の海外進出と1980年代の外国人労働力の流入)にも規定されつつ、きわめて多面的な性格を現出させている。そして、都市下層の分析から見えてくるのは、「不法性」「住所不在」「エスニシテイー」といったことを軸に人間を差異化する日本社会の差別的側面である。住居権や社会保障権といった視点から、こうした点について根本的な見直しが進められるべきである。